連載 第 13 回 ・ 2019.09.04
超高級「泳ぐホタテ」 価値をリデザインして家庭向けで大ヒット
岩手県三陸釜石の海鮮卸・販売業を営むヤマキイチ商店は、ホタテを生きたまま届ける 「泳ぐホタテ」 を提供している。「浜値日本一」(水揚げ地で最も高い価格で取り引きされている)と言われる三陸釜石の高級ホタテを、生きたまま送るノウハウを構築。「最高のホタテを使いたい」という日本全国の高級料理店で利用されている。
しかし伸び悩んでいたのは家庭向けの販売だった。生でも冷凍でも加工品でも、全国どこでも消費者はスーパーや魚屋でホタテを手に入れられる。カニやウニ、アワビのような高級食材と比較して、わざわざ取り寄せる必要が少ない。ニーズが少なければ、ヒット商品にはなりにくい。
「鮮度」優先か「手間」軽減が大切か
泳ぐホタテは、一辺 55cm もある大きな発泡スチロールに海水と共に入れて送る。受け取った側は、重い海水入りの発泡スチロールを玄関から台所に運ぶことになる。さらに、貝殻から身を外すのに手間がかかり、廃棄にも手こずる。贈答品として受け取った人にとっては予期せぬ重労働が待ち構えている。
そこで同社は 1 つの決断をした。泳ぐホタテとして貝がらごと送ることを諦め、ホタテのむき身を使うことにしたのである。最大のオリジナリティーであり強みである「生きたまま届ける」という個性をあえて捨てる。シーンが変われば価値も変わる。贈答シーンにおける求められる価値のバランスでは、最高の鮮度以上に、受け取り手の負担が少ないほうが重要だと考えた。
お正月シーンにフィットさせたところ…
当初検討していたお中元やお歳暮のシーンはもちろんだが、重視したのは お正月のお節料理の購入シーン だ。本来、保存食の意味合いが強かったお節料理では、通常生ものは使われない。お正月の食卓では、生のホタテは歓迎されやすい。むき身でそのまま食べられ、しかも、調理のために誰かが台所に立つ必要がない。老若男女が喜ぶホタテだからこそ、お正月に家族全員で食卓を囲むシーンにはぴったりだと踏んだ。容器も晴れの日の器として重箱を採用。こうして誕生したのが「重箱セット」である。
2018 年 11 月からテスト販売を行ったところ、予想を大きく上回る注文が入り、1 カ月もたたずに予定数に達して売り切れ。その後もヒット商品となっている。ヤマキイチ商店は選ばれる EC サイトになったわけで、学びが多い事例の 1 つと言えよう。